平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

3-2-2 全国各市区の条例等の内容の調査・検討

3 関東地区

A 茨城県

10 市の条例を検討することができた。

(1)経営主体に関する条項
10 市のうち、那珂市を除く9 市が定めている。ただし、笠間市と筑西市は、条例上ではなく事務処理要綱で詳細な定めを行っている。
やはり、地方公共団体を原則とし、登記され、市内に主たる事務所を持つ公益法人、宗教法人がその他の厳しい条件のもとで例外的に経営主体となり得る趣旨の条項であることが多い。経営主体として、そのほかに共同墓地における地域共同体や個人墓地における墓地使用者を規定する例も見られる。また、土浦市のように、「特別な事由がある場合で市長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める場合。」という条項を規定する例もあるが、例外的な規定であり、特別な理由の認定は、相当厳格なものとなるであろう。
(2)事前協議・説明条項
土浦市条例では、市の施行規則で定めるところによる墓地等の経営等に係る協議書の市長への提出義務と、市長との協議義務を定め、市長が特別の理由があると認めるときはこの限りではないとする定めがある。つくば市、ひたちなか市も市長との事前協議義務を定めている。なお、龍ヶ崎市条例では、市との事前協議義務を規定するほか、周辺住民に理解を得るという義務を課している。龍ヶ崎市は、条例及び条例施行規則で比較的詳細な規定を行っているが、条例上の「理解を得る」ということの具体的な内容や申請者の具体的な対応に関し、条例施行規則での定めは見当たらなかった。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
すべての条例に規定がなされており、主な内容は、市長が支障なしと認める場合を除き、公共施設や住宅地から100m 以上の距離にあること。高燥で、飲料水を汚染するおそれがない土地であること。墓地の構造設備につき、市長が支障なしと認める場合を除き、その周囲に障壁又は植栽等による垣根が設けられ、かつ敷地内に雨水等が停留しないための措置が講じられていること、といった規定が見受けられる。
なお、神栖市の条例で、墓地の敷地につき、墓地等を経営するものが所有する土地で、所有権以外の権利が存しないことという規定が設けられており、ひたちなか市の条例も、敷地が当該墓地経営者の所有地であることという条項がある。経営主体が対象墓地の敷地につき制限のない所有権を有することは、墓地の永続性を確保するために重要な事項であるが、茨城県ではそのことを明記する条例は少数派のようである。
(4)大規模霊園に関する規制
定めている条例はない。
(5)市長の裁量権
条例の中には、「この規則に定めるもののほか、必要な事項は、市長が別に定める。」とのみ規定しているものがあり、あたかも条例で規定すべき事項でも市長が定め得るような趣旨を規定するものがある。
なお、神栖市は、条例で「この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。」とし、施行規則では「この規則に定めるもののほか、必要な事項は、市長が別に定める。」と規定し、条例事項ではない施行規則的なものを市長が定める旨を明確に規定している。
(6)みなし規定
10 市中6 市において、市に権限が委譲される以前の時期に茨城県知事が法令に基づき行なった処分や行為、知事への申請等について、新たな条例で市長が管理するようになったものは市長の処分や行為および市長への申請とみなす旨の規定を設けている。
(7)その他
死体の土葬に関する規定を設けている条例は、見当たらなかった。よほど特別の事情がない限り、当該市においては土葬は認められないということであろうか。


B 栃木県

平成12 年4 月栃木県保険福祉部環境衛生課作成の「墓地、埋葬等に関する法律に係る市町村長への権限委譲事務について(事務取扱マニュアル)」(以下「栃木県マニュアル」という。)及び宇都宮市、栃木市等12 市の条例を検討することができた。

(1)経営主体に関する条項
12 市の条例すべてが何らかの規定を設けている。
ア 宇都宮市、足利市、栃木市、鹿沼市、日光市等9 市の条例は、①地方公共団体を原則とし、②地方公共団体が墓地の経営を行わない場合であって、かつ、宗教法人が墓地の経営を行うことがやむを得ないと認められるとき、③山間等で墓地が全くなく、かつ、新設の必要が認められるとき、④特別の事由により新設の必要が認められるとき、という定め方をしている。宗教法人については、足利市を除き、登記された事務所の所在(市内であること)や活動年数につき特に制限をしていない。栃木市は、事務取扱要領において、別途、公益性・永続性及び非営利性の確保や、宗教法人が墓地の経営を行なうことがやむを得ない事由等につき、詳細な規定を行なっている。
那須塩原市条例は、(ア)地方公共団体、(イ)宗教法人、(ウ)墓地等の適切な管理及び継続的な経営が可能と市長が認める者と定め、(イ)及び(ウ)に掲げる者による墓地等の経営にあっては、当該墓地等を必要とする住民の数その他の事情を勘案し、当該墓地等を経営する必要性が特に認められること、(ウ)に掲げる者による墓地等の経営にあっては、墓地等を経営しようとする地域に同号アに掲げる者により経営される同種の墓地等がなく、公衆衛生その他公共の福祉の見地から特に新設が必要であると認められることという規定を行なっている。さらに、別途事務取扱要綱を定めて、経営許可基準につき詳細な定めを行なっている。
佐野市条例は、①地方公共団体、②宗教法人(墓地または納骨堂を経営することがやむを得ないと認められるものに限る。)というシンプルな規定を行なっている。
以上で明らかなように、すべての市条例で公益法人に関する経営許可の定めを設けていない。全く不可能というわけではないが、各条例が予定していないものであり、条例上は「特別の事由により新設が必要と認められるとき」という厳格な要件が定められていることから、経営の許可申請は相当難航するものと思われる。また、宗教法人による許可申請に対しても「やむを得ない事由」が必要となっており条例の規定の仕方に照らし、相当厳格な運用がなされているものと推測される。
イ 栃木県の事務取扱マニュアルには、墓地等の敷地は、当該墓地等を経営する者の所有する土地でなければならないとの規定があり、栃木市条例等5 条例が同様の規定を行なっている。また、小山市及び那須塩原市条例は、更に「所有権以外の権利が設定されていないこと」をも要件としている。
(2)事前協議・説明条項
足利市条例では、「経営許可を受けようとする者(地方公共団体を除く)は、墓地の計画について、あらかじめ市長と協議をしなければならない。」との規定を行なっており、真岡市条例では、申請者に市長に対する書面の事前提出義務を定めている。
その他の市条例では、特段の定めは見当たらなかった。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
栃木県事務取扱マニュアルに、「墓地については、人家及び公共施設から100m 以上離れていること。また、高燥であり飲用地下水に支障のない土地であること。ただし、公衆衛生その他公益を害するおそれがないと認められるときは、この限りでない。」旨の規定があり、これに習ったものと思われるが、全ての市において(足利市条例は別表形式)同様の内容の制限を行なっている。
緑地に関する特段の制限は見当たらない。
(4)大規模霊園に関する規制
特に定めている条例はない。
(5)市長の裁量権
佐野市条例の経営主体に関する規制は他市に比べてシンプルであるところ、「墓地の経営者につき市長が特別の理由があると認めるときは、この限りでない。」「墓地は、次に掲げる構造としなければならない。」として、墓地境界に障壁または植栽等による垣根を設けること、適当な通路を設けること、等を定めているが、「市長が特別の理由があると認めるときは、この限りでない。」と規定しており、かなり市長の裁量で経営許可や設備構造の規制が緩和され得る趣旨の内容となっている。これに対して、真岡市、大田原市、那須塩原市の各条例は、「この規則に定めるもののほか、必要な事項は、市長が別に定める。」旨規定しており、市長の裁量により許可基準が厳格なものとなり得る趣旨の内容となってい る。
(6)みなし規定
特に定めている条例はない。
(7)その他
死体の土葬に関する規定を設けている条例は、宇都宮市等8 条例で規定されている。うち7 市が深さ2m 以上と定めているが、那須塩原市は棺の上面までの深さが1.5m 以上と定めている。


C群馬県

群馬県条例、同施行規則の前橋市、桐生市等9 市の条例を検討することができた。

(1)経営主体に関する条項
ア 群馬県条例及び9 市の条例すべてが何らかの規定を設けている。
群馬県条例は、墓地等の経営の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合で、経営の永続性、公益性及び非営利性が確保できると認めるときでなければならない。ただし、県民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められるときは、この限りでない。とし、①地方公共団体が経営しようとするとき、②公益社団法人又は公益財団法人が経営しようとするとき、③宗教法人が経営しようとするとき、と定めている。
富岡市条例も、同様の定めである。
イ これに対して、他の8 市の条例は、以上の要件に次の要件を付加している。
前橋市は公益法人、宗教法人につき、登記された主たる事務所を1 年以上市内に有することを要件とし、渋川は3 年以上としている、さらに、桐生市、伊勢崎市、館林市、藤岡市、安中市の各条例は、登記された主たる事務所を3 年以上市内に有することに加えて、永続的に自己の所有地において経営しようとするとき、という要件を定めている。
ウ 程度の違いはあるものの、条例において公益法人と宗教法人につき同様の要件を定めていることが特色をなすと言える。
(2)事前協議・説明条項
伊勢崎市条例では、「申請予定者は、あらかじめ、規則で定めるところにより、当該墓地等の経営又は変更の計画について、市長と協議しなければならない。申請予定者は、近隣住民等に対して墓地経営計画等についての説明会を開催しなければならない。ただし、市長がその必要がないと認めるものについては、この限りではない。」旨を規定している。さらに、館林市、渋川市、藤岡市、安中市の各条例は、市長との事前協議、説明会の開催に加え、近隣住民から意見の申出があったときは、「当該申請予定者は、規則で定めるところにより、当該申出をした近隣住民等と協議しなければならない。」旨規定している。また、市長の裁量による手続きの省略に関する規程は見当たらず、比較的厳格な定めとなっている。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 距離制限
群馬県条例は、墓地等を設置する場所に関する規定があり、土地の状況その他の事由によりやむを得ない場合であって、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められるときは、この限りでないとしつつ、(イ)公共施設及び住宅等から120m 以上の距離があること、(ロ)河川又は湖沼から20m以上の距離があること。(ハ)飲料水を汚染する恐れのない場所その他公衆衛生上支障がない場所であること、を規定している。この点、8 市の条例すべてが例外なく同様の規定を行なっている。
イ 緑地制限等
次に群馬県条例では、特に墓地の設備や緑地に関する規定は見当たらないが、前橋市、桐生市の各条例では、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められるときはこの限りでないとしつつ、障壁又は植栽等による垣根を設けて外部と区画するとともに、当該墓地の境界から内側に幅3m 以上の緑地帯を設けることを規定している。また、伊勢崎市、藤岡市、安中市の各条例では、墓地の境界に障壁又は植栽等による垣根を設けて外部と区画するとともに、当該墓地の境界から内側に規則で定める緑地帯を設けることと規定し、施行規則において、緑地帯は幅1m 以上、墓地の区域に対する割合が20%以上であることを定めている。なお、渋川市条例も同様の定めをしているが、施行規則においては①周辺環境を保全するに足りる幅を有すること、②墓地の区域に対する緑地の割合が建築基準法、都市計画法等の関係法令に適合していること、といういささか抽象的な定めを行なうにとどまっている。
(4)大規模霊園に関する規制
特に定めている条例はない。
(5)市長の裁量権
伊勢佐木市条例に、市長は、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要な条件を付することができる旨の規定が認められる。なお、前述したように、群馬県条例ほか8 市の条例で、経営主体の制限に付き、「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められるときは、この限りでない。」旨の規定があり、距離や緑地帯に関する規制につき、「土地の状況その他の事由によりやむを得ない場合であって、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められるときは、この限りでない。」旨の規定があることに照らし、規制を緩和する方向での市長の裁量も比較的広く認められていると言える。
(6)みなし規定
8 市すべての条例に、施行日の前日までに群馬県知事に対してなされた許可の申請で、施行日以後に市長が許可するものに係る墓地等の経営の許可の基準については、なお従前の例による旨の規定があり、良く整備されている。
(7)その他
死体の土葬に関する規定を設けている条例は、全く認められなかった。関東近県の条例に比して特色のある事柄である。


D 千葉県

20 市の条例を検討することができた。

(1)経営主体に関する条項
すべての条例が、(ア)地方公共団体、(イ)宗教法人、(ウ)公益法人に限定する旨を定めている。これに加えて、木更津市を除く10 市は、(エ)自己又は自己の親族のために設置された墓地を自己又は自己の親族のために引き継いで経営する場合、(オ)災害の発生又は公共事業の実施に伴い、自己又は自己の親族のために設置された墓地を移転して、新たに自己又は自己の親族のために墓地を経営する場合で、宗教的感情上及び公衆衛生上支障がないと市長が認めた場合につき、経営許可が受けられる余地を認めており、他県にはあまり見られない特徴である。
その他大半の条例が、宗教法人、公益法人に関しては、市内に登記された事務所を有することのほか、経営主体に関する規制の条項の中で、所有権以外の権利が存しない自己の所有地に設置することを定めている。登記された事務所は、特に主たる事務所とは規定していない。また、千葉市、我孫子市は、木更津市は、宗教法人に関して市内に5 年以上事務所を有することを条件としている。宗教法人、公益法人に関し、市内における事務所の所在及び活動年数に関する定めをする例は少なく、他県に比べて緩やかであると言える。
(2)事前協議・説明条項
佐倉市、山武市、銚子市、大網白里市、野田市、富里市を除く14 市の条例中にこの趣旨の規定がある。そのうち4 市は単に市長との事前協議のみを義務付けているにすぎないが、その他の10 市では市長との事前協議のほか、周辺住民への説明会等の措置を定めている。なかでも千葉市の条例では、申請予定者につき、規則で定めるところにより標識を設置して周知を図ること、経営等の計画を周辺住民等に説明すること、周辺住民等から経営等の計画について意見の申出があったときは、当該申出を行った者と協議すること、を定めている。
また、千葉市、船橋市、佐倉市、佐倉市等10 市には墓地等の経営の許可等に関する事前協議実施指導要綱に事前協議に関する詳細な規定を行なっている。
なお木更津市は、条例において、①申請予定者及び隣接住民等は、墓地等設置等計画の施行に際して紛争が生じないよう、相互の立場を尊重した協議を行い、自主的に解決するよう努めること、②申請予定者は、近隣住民から意見の申し出があったときは規則で定める期間内に隣接住民等と協議し、当該墓地等設置等計画について隣接住民等の理解が得られるよう努めなければならない等、詳細な規定を設けている。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 距離制限
すべての条例に規定がなされている。河川、海、湖沼からの距離に関する定めは20 条例すべてが行っており、その距離は20m 以上となっている。また、公共施設や住宅地からの距離につき定めている条例は15 条例であり、八千代市は、埋葬を行う墓地の場合は100m 以上、その他の墓地の場合は50m以上との定め方をしている。その他の市は、特に墓地の種別で異なる定めをしておらず、千葉市等13市では100m 以上、木更津市では150m 以上という定めを行っている。なお、以上の規定には、市長が宗教感情及び公衆衛生その他の見地から支障がないと認める場合にはこの限りではない旨の規定を設 ける例が多い。市長が公衆衛生のほか周辺住民の宗教的感情に関しても支障がないことに配慮すべきとする規定が多いのは、他にあまり例がなく千葉県内の特色といえる。
その他、墓地の敷地に関する定めとしては、高燥で、飲料水を汚染するおそれがない土地であること、墓地の構造設備につき、市長が支障なしと認める場合を除き、その周囲に障壁又は植栽等による垣根が設けられ、かつ敷地内に雨水等が停留しないための措置が講じられていること、等の規定が見られる。
イ 緑地制限等
佐倉市、我孫子市等13 市の条例には、「墓地の境界の内側に、当該境界に接し3m 以上の幅の緑地帯を設けること、ただし、1,000 ㎡未満の墓地であって、当該墓地の境界に当該墓地の境界から墳墓が見えないように障壁等を設けるものについては、この限りでない。」旨の規定がある。これに対して千葉市条例はさらに厳格で、①墓地の境界の内側に、当該境界に接し3m 以上の幅の緑地帯を設けること、②当該墓地の境界から3m 以上内側に、当該墓地の境界から墳墓が見えないように障壁等を設けること、かつ③当該境界から3m 以上内側に、当該境界から墳墓が見えないように障壁又は密植したかん木の垣根等を設けること、という基準が設けられ、1000 ㎡未満の墓地に関する除外規定は存在しない。さらに千葉市条例には、墓地の区域の面積に占める緑地(第1 号に規定する緑地帯等を除く。)の面積の割合は、5 分の1 以上とすることという基準がある。船橋市条例は、上記①と③を定めている。
これに対して、木更津市条例は、外部から墳墓を見通すことができないようにするため、規則で定める高さ以上の障壁又は密植した垣根等を設けること、墳墓の区域内に規則で定める基準に従い緑地を設けることと規定し、基準の内容は施行規則で定めることとしている。
(4)大規模霊園に関する規制
19 市の条例でこれに関する定めがある。千葉市条例は、墓地の区域の面積が2,000 ㎡以上の墓地につき、施行規則で各規模に応じた緑地帯を設ける等の規則を行っている。また、船橋市条例では、面積が3,000 ㎡以上の墓地は、次に掲げる基準に適合しなければならないとして、各規模に応じた緑地帯を設ける等の規制を行っている。その他、船橋市、佐倉市、市原市、八千代市等13 市の条例では3000㎡以上の墓地、我孫市、鎌ケ谷市等4 市の条例では2000 ㎡以上の墓地、大網白里市条例においては1ha以上の墓地につき緑地帯の面積等につき格別の定めを行っている。
木更津市条例には、特段の定めは見られない。
なお、大規模霊園に該当する場合には、一般の墓地の規制に加えて、墓地の境界に一定の幅の緑地帯を設けること(千葉市では、広さに応じて4m 以上、6m 以上、8m 以上)、墓地内の幹線となる通路や主要な通路につき一定の幅員とすること(千葉市では、6m 以上、3m 以上)が定められている。また、管理事務所、便所、休憩所等の設備を有することや、墳墓の数に応じた数(千葉市では0.05 を乗じた数)以上の駐車台数を有すること、等の規制が加わる場合が多い。
(5)市長の裁量権
印西市条例に、市長は、墓地等の経営の許可又は変更の許可に当たっては、公衆衛生その他公共の福祉の見地から監査法人による財務監査を受けることその他の必要な条件を付すことができる旨定める規定があり、大網白里市条例では、市長に墓地等の経営者に対して墓地等の整備改善又はその全部若しくは一部の使用の制限若しくは禁止を命じ、または法第10 条の規定による許可を取り消すことができる旨の規定があるほか、木更津市条例では、申請予定者等及び隣接住民等の双方から市長に対し調整の申出があったときは、市長が規則で定めるところによりあっせんを行う旨の規定がある。
その他の条例につき、宗教的感情上や公衆衛生上支障がないと市長が認めるときは、規制を適用しない場合がある旨の規定は認められるものの、市長に広範な裁量を認める趣旨の規定は認められなかった。
(6)みなし規定
成田市条例には、「この条例の施行の際、廃止前の千葉県墓地等の経営の許可等に関する条例に基づき千葉県知事が行った現に効力を有する処分は、この条例の相当規定によって市長が行った処分とみなす」旨の規定があり、同様の規定は野田市、柏市、白井市に見られた。
(7)その他
浦安市、山武市、市川市、成田市、柏市の条例では、墓地の経営者は、その経営する墓地に埋葬をさせてはならないという規定を設けている。墓埋法第2 条1 号では、「埋葬」とは、死体を土中に葬ることをいうので、土葬を禁止する趣旨である。
また、「墳墓一区画当たりの面積は、1.5 ㎡以上であること。」と、墳墓の区画の最低面積を規定する条例が、佐倉市、市原市、八千代市、八街市等半数以上の11 市で認められた。これは、他県にあまり見られない傾向である。


E 埼玉県

さいたま市をはじめ、29 市の条例を検討することができた。その結果は以下の通りである。

(1)経営主体に関する条項
すべての条例が、地方公共団体を原則とし、公益法人、宗教法人に限定されている。公益法人、宗教法人については、さいたま市、熊谷市、深谷市、加須市、草加市、朝霞市、志木市、和光市、新座市等いずれの法人に関しても事務所(ないしは住所)を当該市内に有することを条件とするものもあるが、川口市、川越市、行田市、所沢市、桶川市、北本市、久喜市等では、その様な条件を宗教法人にのみ課して、公益法人には規定していない例もあり、その数は相半ばしている。
また、宗教法人に対して事務所を市内に有していることを規定する条例では一定年数以上の活動期間を規定するものも多く、5 年以上とするもの(川越市、狭山市、戸田市など)、3 年以上とするもの(行田市、所沢市、春日部市など)、1 年以上とするもの(草加市、桶川市など)など多様である。宗教法人に関する名義貸しを排除する趣旨であろう。なお、草加市条例では事務所の活動期間のほか、公益法人、宗教法人のいずれについてもその事務所の場所につきが経営する墓地から2 ㎞以内であることという条件を規定しており、他市に見られない特色であると言える。
(2)事前協議・説明条項
秩父市、吉川市、白岡市を除くほとんどの条例で、市との事前協議条項が規定されている。その内容は、「経営許可を受けようとするものは、墓地等の経営計画について、あらかじめ市長に協議しなければならない」という条項となっている。ただし、市長が必要がないと認めるときは、事前協議を省略できる旨を定めている条例も多い。また、計画者に対して、標識の設置義務を定める例は埼玉県内ではほとんど見られないが、①近隣住民等に対する説明会を開催すること、及び②意見を申した近隣住民等と十分な協議を行なうよう求める条例が多い。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 敷地の所有権条項
墓地の土地につき、墓地を経営する者が所有する土地であり、所有権以外の権利が存しないものであることを定めている条例は21 条例、特にこれを定めていないのは所沢市、入間市、秩父市、和光市等8条例であった。
イ 距離制限
墓地の設置場所につき、住宅地公共施等の距離制限を設けている条例は27 条例で、川口市と入間市の2 条例では特に規定が見当たらなかった。住宅地屋公共施設との水平距離はおおむね100m 以上であることを定める条例が大半であるが、久喜市や北本市の条例で、おおむね50m 以上とされている、河川や湖沼との距離は、ほぼすべての条例が20m 以上と定めている。
ウ 構造の基準・緑地制限等
墓地の構造設備に関して、市長が支障がないと認める場合を除き、その周囲に障壁又は植栽等による垣根が設けられることや、一定の緑地帯を儲けることを規定する条例が多い。
条例の中で緑地面積の具体的な定めを行なっている例もあり、富士見市やふじみ野市条例では墓地の面積の30%、東松山市、狭山市、桶川市、北本市条例では20%と規定されている。
(4)大規模霊園に関する規制
さいたま市等9 市の条例に規定がある。主に緑地帯に関する規制である。所沢市条例では、墓地の区域の境界の内側に、下記のとおり墓地の区域の面積に応じた幅の緑地帯を設け、かつ、当該墓地の境界から緑地帯の幅以上内側に障壁又は垣根等を設けること、と規定している。

①3,000 ㎡未満、2m 以上、②3,000 ㎡以上7,000 ㎡未満、3m 以上、③7,000 ㎡以上10,000 ㎡未満、5m 以上、④10,000 ㎡以上、7m 以上。
この所沢市条例が最も大規模な墓地を念頭において定められている規定であるが、行田市条例では緑地帯につき、敷地面積1000 ㎡未満で幅1.5m 以上、1000 ㎡以上2000 ㎡未満で幅2m 以上、2000 ㎡以上3000 ㎡未満で3m 以上、3000 ㎡以上で4m 以上と定めている。また、朝霞市、和光市、新座市では、墓地の区域面積に対する緑地面積割合の規制という形で、比較的小規模の500 ㎡未満で面積の10%以上と規定するほか、500 ㎡以上3000 ㎡未満で15%以上、3000 ㎡以上で20%以上と定めている。
(5)市長の裁量権
さいたま市、加須市、行田市、戸田市、所沢市等では条例中に、市長が経営許可をする場合において(公衆衛生等の見地から)必要な条件を付することができる旨の規定を置いている。
また、行田市、加須市、草加市等8 市の条例で、「市長は、必要があると認めるときは、墓地経営者又は管理者の許可(同意とする例もある)を得て、その職員に墓地に立ち入り、その施設、帳簿、書類その他の物件を調査させることができる、」旨の規定を設けている。墓埋法第18 条1 項では、「都道府県知事は、必要と認めるときは」火葬場への立ち入り検査ができる旨定めているが墓地関しては、「管理者から必要な報告を求めることができる。」とののみ規定している。そのため、当該法律の範囲内に収めるため、立ち入り検査には「管理者の許可(ないしは同意)」を要件としたものと思われる。
(6)みなし規定
市町村合併前の経営許可につき、当該条例での許可があったものと見なす規定は、加須市や久喜市等に見られたが、県知事の許可に関する見なし規定は行田市条例で定められている程度であった。
(7)その他
死体の土葬に関する規定を設けている条例は、見当たらなかった。よほど特別の事情がない限り、当該市においては土葬は認められないということであろうか。
なお、秩父市には、環境保全条例において「何人も墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。ただし、市長が別に定める場合は、この限りでない。」との規定があり、環境保全規則で焼骨散布に関する特例に関する定めがあることが確認できた。全国的にも珍しい条例ではないかと思われる。


F 神奈川県

神奈川県条例のほか、14 の市条例を検討することができた。神奈川県条例は、町または村で墓地が経営される場合に適用されるものである。なお、神奈川県条例には、条例と施行規則のほか、墓地等の経営等の許可に関する審査基準が定められており、多くの市条例にも同様の審査基準(ただし、川崎市においては許可申請に関するガイドライン)が定められており、細目的な規定が置かれている。

(1)経営主体に関する条項
神奈川県条例は、「墓地等を経営することができる者は、次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。」とし、①地方公共団体、②県内に主たる事務所又は従たる事務所を有する宗教法人、③公益法人であって墓地等の経営を行うことを目的とするもの。」という趣旨の規定を行なっている。川崎市、平塚市、鎌倉市、茅ヶ崎市、逗子市も、このように公益法人について事務所に関する規定を設けていない。神奈川県条例にならったものと思われる。
相模原市、藤沢市、小田原市、秦野市、伊勢原市、海老名市、綾瀬市の条例では、公益法人に対しても市内に登記された事務所(主たる事務所又は従たる事務所)あることを要求している。
これに対して、横浜市条例では、宗教法人つき、単に登記された事務所を市内に有するもの、との規定しか行なっていないが、墓地等を経営するために必要な経理的基礎があること、という定めの他、契約約款の内容に関しての定めを設け、「墓地の使用者にとって権利義務関係が明確になっていること。その使用者の利益の保護が十分に図られていること等の要件を満たすものとして規則で定める基準に適合するものであること。」という他市に見られない条例での細かな規定を行なっている。
なお、海老名市、綾瀬市の条例には、宗教法人につき市内の事務所を拠点として5 年以上の活動歴あることを要件としている。
横須賀市の条例には、地方公共団体のほか、①宗教法人で、登記された事務所を市内に有するもの、②個人にあっては、災害の発生、道路建設等公共事業の施行等により墓地を移転する必要が生じたとき、に経営主体となり得る旨定め、公益法事に関する規程を設けていないのは、他市に見られない特色である。
(2)事前協議・説明条項
神奈川県条例では、①経営許可を受けようとする者は、墓地等経営計画について、あらかじめ知事に協議しなければならない。②墓地等の近隣の土地又は建物の所有者、住民、学校の管理者等で規則で定める者に対し、墓地等経営計画の概要について説明会を開催し、速やかにその説明会の内容その他規則で定める事項について知事に報告しなければならない。③近隣住民等から意見の申出があった場合は、当該申出をした者と協議しなければならない。④以上の手続について、知事が県民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、手続の全部又は一部を行わないことができる、旨の規定が設けられている。
横浜市と伊勢原市を除き、ほぼすべての市条例においても、市長との事前協議を義務付ける条項を置いている。鎌倉市、小田原市は、経営許可を受けようとする者は、墓地等経営計画について、あらかじめ、市長と協議しなければならない旨の規定を置くシンプルなものである。
その他の12 の市条例では、近隣住民等に対して、墓地等経営計画の概要等について説明会を開催することを定めており、近隣住民等から墓地等経営計画について協議の申出があった場合は、当該申出をした者と協議しなければならない旨の定めを置いている。さらに、横浜市、横須賀市、藤沢市、逗子市の条例は、協議のみにとどまらず近隣住民等の理解を得るよう努めなければならない旨の規定を置いている。
なお、多くの市条例にも、以上の手続について、市長が市民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、手続の全部又は一部を行わないことができる、旨の規定が設けられている。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 距離制限
敷地に関し、神奈川県条例では、①墓地等を経営しようとする者が所有し、かつ、抵当権の設定等がなされていない土地であること。ただし、規則で定める事項については、この限りでない、②墓地等の境界線と人家、学校等公共施設との距離が規則で定める距離(110m)以上であること。ただし、知事が、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、この限りでない、という規定を置いている。
各市の条例も、上記神奈川県条例の内容とほぼ同様である、ただし、横須賀市条例には上記制限が見当たらない。また、相模原市条例は、②につき墓地にあっては50m(死体を埋葬する墓地にあっては100m)との特色のある規定の仕方を行なっている。焼骨を埋蔵する墓地であれば、周辺住民の感情は措くとして、公衆衛生の見地からは50m とする妥当性が認められるのではないかと思われる。
県条例にならったものかと思われるが、高燥で、かつ、飲料水を汚染するおそれのない土地であることや、当該墓地から河川、海、湖沼までの距離の定めがないことは、周辺の関東近県の市・区条例と比べて特色がある。
イ 構造の基準・緑地制限等
構造設備等、特に緑地に関しては、神奈川県条例では、知事が、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときはこの限りでない、という留保条項があるものの、①緑地面積の墓地の敷地面積に対する割合が、規則で定める割合以上であること、②植樹等により、隣接地等外部と明確に区分されることの規定がある。
市条例においても同様の市長の留保条項を設けつつ、緑地割合を規定するものが多い、ただ規定の仕方は一様ではなく、緑地面積を墓地の面積の10 分の3 以上とするもの(横須賀市)、100 分の35 以上とするもの(平塚市)や、緑地面積の割合に付つき、墓地面積が10,000 ㎡以上の場合100 分の35、10,000㎡未満の場合100 分の15 とする条例(茅ヶ崎市)、墓地面積が1 ㏊以上の場合100 分の35、1 ㏊未満の場合100 分の15 とする条例(逗子市)がある。また、敷地が市街区域である場合と市街化調整区域の場合で異なる緑地割合を定める条例(藤沢市、小田原市、海老名市、綾瀬市など)も存在する。
(4)大規模霊園に関する規制
神奈川県条例には特に規定がないが、横浜市条例には、①市街化調整区域に面積が10,000 ㎡未満の墓地を設置する場合は当該墓地の面積の30%以上の、市街化調整区域に面積が10,000 ㎡以上の墓地を設置する場合は当該墓地の面積の35%以上の緑地を規則で定める基準に従い、設けること。②面積が3,000 ㎡以上の墓地にあっては、当該墓地の駐車場の出入り口が幅員4.5m 以上の道路に接していること等の規定を設けている。
その他、緑地面積割合につき茅ヶ崎市条例では墓地面積が10,000 ㎡以上の場合100 分の35、逗子市条例では墓地面積が1 ㏊以上の場合100 分の35 と定められており、藤沢市条例では市街化区域で墓地面積が10,000 ㎡以上の場合100 分の35、海老名市条例と綾瀬市条例では市街化調整区域で墓地面積が1 ㏊以上の場合100 分の35 とする旨の定めがある。なお鎌倉市条例施行規則では、敷地面積が1 ㏊以上の場合100 分の30 とする旨の定めがある。
(5)市長の裁量権
神奈川県条例では、知事の権限として、許可をするに当たっては、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要な条件を付することができる旨の規定がある。相模原市、藤沢市、茅ヶ崎市、伊勢原市には同様な規定が認められる、また、横浜市、川崎市等8 市の条例で「市長は、必要があると認めるときは、この条例の施行に必要な限度において、当該その職員に墓地に立ち入り、その施設、帳簿、書類その他の物件を調査させることができる、」旨の規定を設けている。埼玉県内の市条例では、墓埋法第18 条1 項で墓地への立ち入り調査権限が規定されていないためか「墓地管理者の許可ないし同意」を条件としていたが(逗子市条例も同旨)、神奈川県内ではこれを一歩進めた規定を置いている場合が多い。墓埋法の規定を逸脱しているのではないか、との懸念なしとしない。
(6)みなし規定
小田原市条例において、この条例の施行の際現に法第10 条の規定により行われている本市の区域内における墓地等の許可に係る申請についての許可の手続及び墓地等の構造設備基準については、この条例の規定にかかわらず、神奈川県墓地等の経営の許可等に関する条例の規定を適用する、旨の規定が認められた。
(7)その他
土葬に関する定めを措く条例は認められなかった。
横浜市条例には、合葬墓を設けるよう努めること、とする規定や、市長の附属機関として、横浜市に横浜市墓地等設置財務状況審査会を置く旨の規定がなされており、他市に見られない特色である。
また、横須賀市の「墓地等の経営の許可等に関する条例の事務処理について」において、墓地の経営は将来にわたり安定する必要があるため、墓地経営者はより適格性が高い地方公共団体を原則とする。また、本市は墓地の設置について宗教法人本来の宗教活動に伴うものを中心に考えるため、宗教法人にあっては市内に主又は従たる事務所を有する登記法人とする。この観点から公益法人である財団法人及び宗教法人の公益事業による事業型墓地は認めないものとするとして、公益法人型の墓地経営は認めないことを明確に宣言されている。


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